「六月九日マルニイチキュウ時。大佐は疲れ切った様子で司令部に戻られた。……こんな時間までデートですかね?」
「同じくマルサンゴナナ時。大佐は手紙のようなものを大尉に運ばせていました……なんでしょうアレ」
「同じくマルヨンサンマル時。……徹夜だ、とか意気込んでたのに寝ちまったよ、大佐」
「大尉が出ておられるのが要因ですね、きっと」
「あーやってまぁた溜まるんだぜ、仕事。査察任務は良いのかねぇ」
「あ、それなら代わりにやっておけとの指示が下ってますよ、中尉」
「俺かよ!」
「同じくマルゴニサン時。……大尉が戻って来られましたね」
「あ、起きたぜ大佐殿」
「あれは起こされた、と言うんでは」
「同じくマルゴゴハチ時……大佐こっち見てますよ!?」
「バレたんじゃないか!?」
「バレるわけが無いだろう、折角徹夜に付き合ってまで見付かりにくいようにやったんだから!」
「でも、大佐って地獄耳とか聞きますよー!」
「マズイ、こっち来るぞ! 何とかしてくれシロック中尉!」
「俺にはどうにもできん、ヘンテ少尉!」
「無茶言わないで下さい、ここは曹長に」
「オレじゃ無理ですよ、少尉!」
「くう、大尉を味方につけてさえいれば……!」
「何をやってるんだお前達は!」
眠たげに、イラついた様子でロイが叫んだ。ひそひそと話していた部下たちの動きがぎくりと止まったのを確認すると、そのうちの一人の手から手帳を奪い取る。
そしてページをパラパラめくると、目を細めた。
「上官監査……? そんなことをやっている暇があれば働け!」
「これも仕事の内ッス、監査部に命じられたんですよ!」
「問題無し、と一言書いて出しておけば良い!」
「俺らの給料が下がります!」
まったく、と溜め息混じりに呟き、ロイは手帳を投げ返した。それから、声を落とす。
「給料、階級、監査……国の統制よりも、軍部の統制の方が異常な程に早い」
「……元が組織であったことも要因の一つ、でしょう」
「ああ。……それと、恐らく軍部の台頭を狙っているのだろう」
大尉と呼ばれたムクホークの返答に頷きながらもロイが返すと、シロックを始めとした部下たちがざわつき始める。
「な……選帝公殿が、ですか!?」
「さあな。……それか、その上か」
「上って……選帝公は国における最上位でしょーに!」
「国教団の強力な後押しによって『選ばれた』、な」
「しかし、それでも支持があることは確かですよ!?」
それには答えず、ロイは睨むように窓の外を見た。すでに昇った朝日が照らす、空を見上げた。
そこにいる何かを見据えるように。
「何にせよ、この異常な統合には必ず反対が起こる。……行く末は、分かるだろう?」
「大きな……戦争に、なるでしょうね」
あるいはそれが狙いかもしれないな、と心の中で呟くと、ロイはゆっくり目を閉じた。寝足りない目に、朝日の眩しさは痛いほどに刺さる。
「あーあ……全知全能の神ってぇのがいるなら、楽に纏めてくれるだろーに」
面倒そうなシロックの呟きには、ふっと笑みを零して。
「全知全能ならば、手を下さずにヒトも殺せるんだろうな」
「……不穏当な発言は慎んだ方がよろしいかと」
苦笑混じりに、しかしそれを表には出さず諌めるムクホークへ笑み返すと、再び朝陽を見据えて。
「ああ、……私の収まるべき椅子が見えるまではな」
「そーいや、大佐殿。何でコレ、知らないコトにしとくんスか?」
そう言ったシロックは、自らの甲羅に刻まれた印……光翼十字印を示して見せた。
「……なに、あちらの世界でそれを知られている事が気掛かりでな」
「はー……しかし、国教を知らねぇワケが無いでしょうに」
「国教であることをあちらが知っていたなら、突っ込んで聞いてきただろう」
つまりは利用したんスか、と笑いながら言うシロックへ、ロイは躊躇も無く頷いた。
「構いませんけどね。……こんなの刻まれちまった親のせいで相応に昇級しない階級分、大佐殿が奢って下さるなら」
お前らしいよ、と笑って答えたロイは、早く中央へ栄転したいものだと呟いた。それを聞いたムクホークが、思い出したように尋ねる。
「そういえば、……指揮下に人間が配属されるとお聞きしましたが」
「そうだ。……こんな形で、平等化への一歩が踏み出されるとは」
皮肉な話だな、と続けたロイの口元には、薄らと笑みが浮かべられていて。
しかしその鋭い闇色の目は、全く笑っていなかった。
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「……狼我の様子は?」
コツ、コツと廊下に響く足音。
「大分落ち着いたようですが……」
「まだ背中が疼く、か」
並んで歩く、二人の男。
「火皇。……あの印について、何か」
「俺は何も知らねぇって。……知ってそうなアテも、此処を訪れやしねぇ」
「……国の設立から今まで。他の組織も動いていない……もしや、私たちのように動けない状況下にあるのでしょうか」
「さぁね。……ただ、尋常じゃねぇことは確かだ」
「……このままでは、悪の組織として本格的に討たれる日も近いですかねぇ」
「警備隊じゃなくて軍ときたからなあ……ま、頭領次第さ」
「……そう、ですね」
「……こっちにゃ、戦争の用意だってあるんだ。あのアクアのクソどもと組むことだって厭わねぇ。……なあ、国軍さんよぉ」